地震に強い住宅とは?「耐震」「制振」「免振」
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地震に備える3つの考え方「耐震」「制振」「免振」
【目次】
2011年3月の東日本大震災や熊本地震以降、大地震の発生確率や被害想定の見直しが進められています。南関東地域で10 年以内に大地震の可能性80%、首都直下地震で最大震度7と予想されています。あらためて大地震への備えが求められています。地震に強い建物をつくることがきわめて重要です。このページでは、地震に強い戸建て住宅について「耐震」「免振」「制振」について解説しています
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【耐震】
地震で住宅が壊れるのは共振現象が原因!!
大地震で建物が壊れるのは地盤の揺れが建物に伝わり、揺すられているうちに柱や梁、壁などの構造体がダメージを受けるからです。建物にはそれぞれ揺れやすい震動の固有周期(1秒程度)があり、地盤の揺れとそれが一致すると共振現象を起こし、一気に住宅へのダメージが大きくなります。逆に、このことを応用したのが超高層ビルなどで、建物を軽くしなやかにつくることで固有周期を数秒から10秒程度に伸ばし、地震の際に共振現象が起こらないようにしているのです。ただし、遠くまで伝わりやすい長周期地震動の影響が最近注目されています。一戸建ての注文住宅のようにせいぜい3階程度までの低層の建物は、固有周期がもともと短く、超高層ビルのような方法はとれません。基本的には地震の揺れに耐えるように、柱や梁、壁などを強くし、またそれぞれを金物などでしっかり接合することで地震に備えます。このように、建物の構造を頑丈につくり、地震の揺れに備えることを「耐震」といいます。
耐建築基準においての耐震性の規定
日本では、地震等に対して建物が備えるべき性能について「建築基準法」に規定が設けられいます。過去に何度も見直しが行なわれてきました。現行の規定は「新耐震基準」といわれ、1981年(昭和56年)6月から適用されているものです。「耐震」という言葉が使われているように、基本的な考え方は、やはり地震に耐えることがメインです。ただ、やみくもに「耐震」のレベルを上げようとすれば、柱や梁などをどんどん太く頑丈にしなければならず、その分大幅にコストがアップし、必然的に建物の使い勝手も悪くなります。そこで「新耐震基準」では、
①数十年に一度発生する地震の地震力に対しては、構造躯体が損傷しないこと
②数百年に一度発生する地震の地震力に対しては、構造躯体が倒壊、崩壊しないこと
というように、2段階の目標を設定しています。①の「数十年に一度発生する地震」というのは、震度5強にあたります。また、「損傷しない」というのは、文字通り住宅が無傷であることです。ただし、損傷しないのは構造躯体に限られ、外装や内装、問仕切り壁など構造躯体にあたらない部分については、ある程度の損傷はやむを得ないという考え方です。。これに対して、②の「数100年に1度発生する地震」というのは、震度6強から震度7のことで、関東大震災や阪神・淡路大震災の規模にあたります。
また、「倒壊、崩壊」というのは、住宅が倒れ人が下敷きになって圧死するような状態をいいます。つまり、震度6強から震度7の地震であっても、少なくとも建物が壊れて人が死ぬようなことは避けようということです。逆にいうと、人命が損なわれない程度の損傷は仕方ないということでもあります。
2011年の「東日本大震災」では、各地で建物に大きな被害が発生していますが、津波や地盤の液状化、地滑りなどによるものが大半を占め、地震の揺れで直接、建物が倒壊したケースは少なかったようです。詳細は今後の調査、分析を待たなければならないとはいえ、「新耐震基準」は、その目標を達成するという意味では、有効であったかと言われています。ただ、繰り返しになりますが、「新耐震基準」では大地震において建物がまったく無傷であることを目指しているわけではないことは認識しておきましょう。ある程度の補修費用が相当かかったり、場合によっては建替えが必要になることもあるということはよく理解しておくべきでしょう。
一戸建て注文住宅の設計では「壁量計算」が一般的
建築基準法が要求している耐震性に関しては、具体的には建築物の構造によって異なります。マンションのような鉄筋コンクリート造では、柱や梁の太さ、コンクリートの密度、中に入れる鉄筋の量や入れ方などが大きなポイントになります。一方、一戸建て注文住宅の場合は「壁」がポイントとなります。璧といっても、筋かいを入れたり構造用合板を張ったりした頑丈な壁のことで、これを「耐力壁」と呼びます。こうした耐力壁が、地震の横揺れや、あるいは台風など風の圧力による建物の変形を抑えるのです。実際には、設計段階において、「壁量計算」と呼ばれる方法で、床面積に対して耐力壁が十分確保されているかをチェックします。また、このとき耐力壁が各方向にバランスよく配置されているかも確認します。耐力壁の量は十分でも、配置がかたよっていると建物がねじれて被害を受けやすくなるからです。
2000年改正で接合方法などが厳しくなった木造一戸建てについては、阪神大震災を踏まえ、2000年に建築基準法の大きな改正が行なわれました。それ以前から、木造住宅でも、「新耐震基準」のもと、数十年に一度起こる地震と数百年に一度起こる地震の2段階に分けて耐震性を確保するという目標は同じでした。ただ、木造住宅は建物としてはとてもに軽く、また柱や梁に用いる木材は強度などにばらつきが非常に大きいため、構造設計についてあいまいな規定になっていた部分がありました。しかし、1995年1月の阪神・淡路大震災で、築年数の古い木造住宅の被害が目立ったことから、木造住宅の耐震規定をより具体的に、かつ強化することになったのです。
たとえば、建物を建てる地盤の強さ(地耐力)に応じて基礎の仕様を決めることが、事実上、義務化されました。また、土台、柱、梁、筋かいなど構造材の接合部について、部位別に金物やボルトの形状などが具体的に指定されました。さらに、耐力壁がバランスよく配置されているかどうかのチェックも「四分割法」「偏心率計算」といった具体的な方法で確認しなければならなくなったのです。
住宅性能評価の「耐震等級」を確認
建築基準法における耐震性の規定は、あくまで法律で定められた最低限のものです。これを下まわると法律違反になりますが、高くして安全性を高める事は自由です。大地震で被害を受けた場合の補修コストなどを考えて、あらかじめ建築基準法のレベル以上の耐震性を確保しておいたほうが合理的だという判断もあるのです。
そんなときに参考になるのが、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)に基づく「住宅性能表示制度」です。この制度は、住宅について客観的に比較検討できる物差しをつくるもので、2000年(平成12年)10月1日から、まず新築住宅を対象にスタートし、2002年(平成14年)12月1日からは中古住宅も対象になりました。表示項目は現在、10分野34項目あり、それぞれ専門の評価機関が共通のルールで評価し、住宅性能評価書が交付されます。評価書には、設計段階の評価である「設計住宅性能評価書」と、施工・完成段階の現場検査を経た「建設住宅性能評価書」の2種類があり、それぞれ品確法で定めたマークが表示されます。
新築一戸建てでは「耐震等級3」が当たり前の時代!!
住宅性能表示制度の表示項目のうち耐震性に関わるものとして「耐震等級」があります。「耐震等級」はさらに、建築基準法における2段階の目標をふまえ、「構造躯体の倒壊等防止」と「構造躯体の損傷防止」の二つに分かれています。そして、それぞれ等級が3ランクあり、等級1は建築基準法レベル、等級2は建築基準法レベルの1.25倍、等級3は同じく1.5倍の地震に耐えられることが目安となっています。
平成23年度のデータでは、住宅性能表示制度を利用した新築一戸建てのうち「耐震等級3」が88%を占めています。マンションに比べ、一戸建てでは耐力壁を増やしたり強度を上げたりすることで対応しやすいため、「耐震等級3」にしてもそれほどコストアップにならないからだと考えられます。これからの時代、一戸建て注文住宅を建てたり購入するなら、建築基準法レベルの「耐震等級1」ではなく、「耐震等級3」を目安にするべきでしょう。
【免振】と【制振】
揺れを受け流す「免振」 打ち消す「制振」
建物の地震対策は「耐震」構造を基本にしていますが、近年は建築の技術革新が進み、「免震」構造や「制震」構造という方法も普及してきました。
「免震」構造とは、地震の揺れを正面から受け止めて耐える(耐震)のではなく、そのエネルギーを。受け流す・装置を利用するものです。具体的には、積層ゴムを利用する「弾性系」、ボールベアリングを用いる「転がり系」、鋼板などを滑らせる「滑り系」があります。
一方、「制震」構造は、地震の揺れを打ち消す装置を利用するものです。こちらもいろいろな方法があり、たとえば、ビルの屋上に大きな振り子を設置し、大地震が起きた際には地震の震動と逆方向にこれを動かして建物の震動を打ち消すものや、構造の柱や梁の間にダンパーを入れたりするものがあります。
一戸建て注文住宅では「転がり系」の免震が主流
上記の免震構造や制震構造は従来、データセンターやオフィスビルなどでまず導入されました。建物の損傷を抑えるだけでなく、内部に設置されたコンピュータなどを安全に保護する必要があるからです。最近は、免震構造を住宅に取り入れるケースも出てきました。たとえば、超高層マンションでは「弾性系」の免震構造を採用するケースがよくみられます。注文住宅でも20年ほど前から、東海地震が想定されている静岡県を地盤とする大手工務店が、積層ゴムを用いた「弾性系」の免震構造を積極的に販売し、これまでの施工実績は3000棟を超えています。それに追随し、大手ハウスメーカーも免震構造の採用を進めており、その多くはボールベアリングを用いた「転がり系」です。各社とも実物大実験などを行ない、大地震の揺れを数分の1から十数分の1に軽減できるとしています。
コストアップや周囲のクリアランスに注意
免震構造については注意すべき点もあります。第一はコストの問題です。床面積にもよりますが、通常、1棟当たり300万~500万円程度のコストアップになるといわれています。第二に、大地震の際には建物が前後左右に動く(揺れる)ので、建物周囲に数10センチのクリアランスが必要になります。隣との距離があまりとれないと難しいかもしれません。第三に、構造上、建物本体を鉄骨などの専用架台の上に乗せるため、基本的に新築時でないと採用できません。中古住宅にあとから免震装置を取り付けることも、まったく不可能ではありませんが、かなり大規模で難しい工事が必要になるようです。