住宅ローンの「考え方」とは?
あなた自身の「考え方」を住宅ローンに反映させた場合、最も大事なポイントとは何でしょうか。それは、「今後しばらくの期間、積極的に借り換えや繰上返済をしていく(できる)のか、しない(できない)のか」に尽きると思っています。
なぜ「今後しばらく」なのかというと、住宅ローンの金利の影響がいちばん大きいのが借り始めだからです。そして、繰上返済の目的は「期間を短くすること」でも「返済額を下げること」でもなく、「元金を減らすこと」です。繰上返済ができるのであれば、長期固定よりも金利の低い短期固定のローンを選んで、どんどん元金を減らしていくほうが賢明です。なぜなら、短期固定のほうが金利が低い分、より多く元金を返済でき、借入残金を減らしていけるからです。
逆を言えば、繰上返済ができるのに長期固定のローンを選ぶということは、毎月の返済では短期固定よりも元金を減らさないということを意味します。そうなると繰上返済の効果を最大限に発揮させられません。
一方、繰上返済の可能性があまり見込めないのであれば、10年程度に金利を固定させておき、短期固定よりも利息負担が増えたとしても、それは「安心料」として返済の安定化を図るべきでしょう。
住宅ローンの情報収集
くどいですがくり返します。銀行の資料を多く集めればそれだけ正しい答えに近づくというものではありません。本来は正しい答えの導き方を知って(=「考え方」を定めて)から情報を集めるべきなのです。そのためには資料集めは一休みして、返済計画と一緒に、貯蓄計画を立ててみましょう。
「自分は貯蓄ができそうだから金利の低い3年固定でいこう」ということになれば、ほかの金利タイプの情報は不要ですし、銀行を変えたとしても、同じ金利タイプならばさはどの違いはありませんから、収集するのはある程度の銀行の情報だけで十分です。よく「どの銀行も同じでどこがいいかわからない」という人がいますが、それは「どこの銀行でもそれほど変わらないからどこでもいい」ということなのです。
「考え方」というのはあなた自身の投影ですから、まずは自分の経済状態を含めた現状をよく知り、将来への計画を立てることが大事です。そうすれば、今まで迷ったり不安だったりしたことがウソのように、自然とベストな選択に落ち着きます。また、情報の取捨選択が容易になり、多くの情報に惑わされることなく、余分な手間がかからなくなります。ベストな選択をするための「考え方」を重点的に説明していきます。そのうえで、自分は積極的に借り換えや繰上返済ができるタイプなのか、できないタイプなのか、どのようなローツを組んだほうがいいのかを見極めてもらえればと思います。
気になる「金利」の決まる仕組み
住宅ローンの金利について「固定か」「変動か」「固定だったら何年の返済にするか」に迷うのは、皆さん、将来の金利がどうなるかわからないからです。実際のところ、私も未来のことはわかりません。ではなぜ私が皆さんに、住宅ローンのアドバイスができるのかといえば、将来の金利という数字を正確に当てることはできなくても、金利が決まる仕組みは理解していて、そのためにある程度の予測ができるからです。
それでは、ごくごく簡単に、住宅ローンの金利が決まる仕組みを解説しましょう。本来、それだけで1冊の本が書ける題材ですから、相当におおざっぱなことはお許しください。きちんと理解したい人は、気のすむまでご自身で勉強されることをお勧めします。
景気、物価、株価によって金利は上がる
まず金利が決まる基本として、「景気」や「株価」「物価」「為替」「債券」というものと連動しているという点を押さえてください。景気が良くなれば金利が上がる、物価が上がると予測されれば金利が上がる、株価が上がったから金利が上がるといった感じです。さて、金利が上がりそうな環境ができ上がると(実質的に金利が決まるのは市場ですが)、そこに大きく関与してくるのが「日本銀行」(日銀)です。日銀はさまざまな判断材料から、「金利を上げる・下げる」という方針を決めます。これを「金融政策」といいます。景気が悪ければ一時的には金利を下げ景気回復を促しますし、金利が上昇して危険だとすればそれを食い止めるような策をとります。
日銀は日々金融市場の安定化のために、「公定歩合操作」「公開市場操作」「預金準備率操作」という3つの作業をしています。現在の住宅ローンに関係性の高いものは「公開市場操作」なので、そこを抽出してお話しします。日銀は「短期金融市場」のなかの「コール市場」というところでお金を出し入れして金利を操作します。この操作によって、その後世間一般の短期金融商品の「金利」というものが動きます。一方、長期の金融市場が動く要因はなにかというと、さまざまな「予想」です。たとえば、「日銀がコールレートを上げそうだ」と予想されると長期金利は上がります。日銀の金融政策以外にも「物価が上がりそうだ」といった予測が成り立つとやはり長期金利は上昇傾向になります。それら長期金利の基準となるのが長期国債「新発10年物国債」です。
このように、短期金利の決定要因としては「そのときの金融政策の影響」が強く、長期金利の決定要因としては「予想」が強いと考えられます。金利が決まる仕組みについて要点をかいつまんで説明しますと、この金利が決まる仕組みやそのほかの要囚を考え合わせたうえで、「金利が急上昇する確率は低い」という結論に至りました。未来の事象を正確に当てるのは無理でも、金利が決まる仕組みを知ることはそう難しくはないはずです。仕組みがわかれば、少なくとも「金利が急上昇するか、否か」といったことへのある程度の予測はできるでしょう。
住宅ローンの3つのタブー!! 【絶対にダメ】
これから住宅ローンを組んでマイホームを買う人は、建てる人は、まずは住宅ローンに3つの「タブー」があることを押さえておきましょう。
住宅ローンのタブー①
頭金ゼロで借りると「逆ざや」状態が続く
「タブー」の一つ目は、「頭金ゼロでローンを組む」ことです。ひと昔まで、住宅ローンを組むには頭金を入れなくてはなりませんでした。しかし近年、銀行間で住宅ローン獲得競争が過熱した結果として、「頭金ゼロでもOK」という銀行が増えてきています。頭金がなくてもいいと聞くと、「賃貸で家賃を払い続けるのももったいないし、全額ローンを組んでマイホームを買ってもいいかな」と考える人も多いようです。しかし、頭金ゼロの住宅ローンを組むのは非常に非常に危険なことだといえます。というのも、万が一、途中で返済が困難になって家を売却しようとしたとき、頭金ゼロだと「売りたいのに売れない」という状態になってしまうリスクが大きいからです。
たとえば4000万円の新築一戸建てを頭金ゼロで購入した場合、資産価値は80~90%程度と考えられます。意外に思うかもしれませんが、新築ということは、不動産事業者の利益や宣伝広告費などの費用分か上乗せされて価格が決まっているはずですから、資産としての価値は購入価格より1~2割程度は低いと考えるのが妥当なのです。そして2年経過後、ローンの返済が厳しくなって家を手放そうとしたときは、どのような状態になっているでしょうか。購入時に3200万~3600万円の価値があった物件ですが、時間が経った分値下がりし、資産価値は3000万~3400万円程度になっていると考えられます。
一方、住宅ローンの残債は、一般的な返済プランならおそらく3800万円程度は残っているはずです。この場合、差額の400万~800万円を現金で用意できなければ、「売りたくても売れず、返済もできない」ことになります。「いざとなったら売ればいい」と思う人もいますが、住宅はローンがあると、売りたいと思えば売れるというものではないのです。
頭金を入れずにローンを借りると、上の例のように、ローン残高が住宅の資産価値を上まわる「逆ざや」の状態が長く続きます。この間に、リストラにあったり、体をこわして収入が激減したりといった想定外の事態が起きれば、打てる手は非常に限られてしまうのです。頭金は、できれば物件価格の2割は用意したいところです。どうしても足りないという人も、必ずI割は川意しましょう。もしいま貯蓄がないのであれば、住宅ローンを組むべきではありません。頭金を貯めることは、住宅ローンを計画的に返済するためのトレーニングにもなりますから、購入時期を遅らせてでもしっかり頭金を貯めるようにしましょう。
住宅ローンのタブー②
「年収の25%以内なら安全」にだまされてはいけない!
一般に住宅ローンは「返済額が年収の25%以内なら安心」などといわれます。この理屈でいうと、たとえば年収500万円の人なら、125万円まで住宅ローンの返済にあててもOKということになります。「月々10万円の返済なら家賃並みの負担ですし、年収の25%以内なのでラクに返済できますよ」不動産会社の人からこんなふうに言われたら、「それなら買っても大丈夫かな」と思ってしまうのではないでしょうか。
しかし、「年収の25%」はまったくアテになりません。具体的に例をあげて考えてみましょう。年収500万円のAさんの場合、まず税金や社会保険料が2割程度は差し引かれるため、手取り年収は400万円程度です。さらに、マイホームを買えば、月々の返済以外にも住居費がかかることを忘れてはなりません。持ち家になると固定資産税を払わなくてはなりません。こうしたローン以外のコストも加えれば、住居費は年間で138万円にもなるのです。400円から138万円を差し引くと、残りは262万円。仮に、月々の生活費と子どもの教育費が16万円かかるとすると、年間192万円が日々の暮しでなくなります。残りは、70万円です。さらに、帰省や旅行、家電の買い替えといった特別な出費が年50万円くらいと見積もると、貯蓄にまわせるのはわずか年20万円。予定外の支出がかさめば、年間収支が赤字になってしまうことも十分考えられます。「ローン返済額は年収の25%までならOK」と考えるのは、「タブー」です。「家賃並みの返済額」というのも、疑ってかかる姿勢をもったほうがいいでしょう。固定資産税も考慮し、年間の住居費がどれくらいかかるかを冷静に計算して、家計がその負担に十分耐えられるかどうかを検討しましょう。
住宅ローンのタブー③
変動金利型でローンを組んではいけない!!
もう一つの「タブー」は、「金利が低いから」と変動金利型だけでローンを組むこと。「金利はまだまだ上からないから、変動金利型がおトク」と考える人も少なくありませんが、変動金利型はしくみが複雑で、リスクも大きいのです。変動金利型の場合、金利が約束されているのは半年だけ。しかし、金利が上昇しても、返済額は5年間据え置くというルールがあります。利息額が増えても返済額が変わらないと、元金に充当される分か少なくなるので、ローン残高の減りが遅くなってしまいます。定年間際になって、「ローン残高が思ったより減っていなかった」ということにもなりかねません。
また、変動金利型だと、金利が低い分たくさん借りられてしまうというリスクがあります。35年ローンで、毎月返済額を11~12万円とすると、金利2.5%なら借りられる額は3200万円ですが、金利が1.0%なら4000万円も借りられるのです。「返せる額」を考えずにめいっぱい借りれば、結局、60歳までに完済できず、老後に負債を引きずる可能性は非常に高くなります。変動金利型は、利用するにしても、借入れの一部にとどめるようにしましょう。